「日本の外洋ヨット」前書き

本書に収録された外洋ヨットは,1973年から1974年にかけて,
「舵」誌上に「日本のプロダタションヨットJ或は「日本のグルーザー」
として発表されたものの中から,クォータートナー6隻,ハーフトナー7隻,
スリークォータートナー4隻, ワントナー1隻の18種を選んで再編したものである。

ここ数年間,わが国の外洋ヨット界は質量ともに驚異的な進歩発展を見せた。
主に相模湾を中心に発展して来たオフショアレースも,国際化の一途をたどり,
NORCのトップレーサーたちはすでに海外のオフショァレース参加への
第二歩を踏み出している。
一方,国内を旅してみても,ひなびた漁港の一隅に,最新のオフショァレーサーの
姿をよく見かけるほど,オフショァョットは全国的に普及してきてい
る。
そして, 日本で入手可能な艇の種類も,巨匠“S&S"を始めとして
最新鋭の“D.Peterson"|こ至るまで,近代的な外洋ヨントが
選りどり見どりの盛況である。
これら外国勢に対抗するわが国のデザイナーも,武市俊氏を中心として,
ベテラン渡辺修治氏から,新進林賢之輔氏まで,数々の意欲作を発表
し続けている。
正に百花練乱, 目をうばわれるばかりである。
この時期に,主として国内で活躍する外洋ヨットのプロフィルを,
写真を織りまぜて解説することはきゎめて意義深いことと確信する。

本書を編纂するに当り,留意した点を列挙すると次の通りである。
1 量産艇または量産を前提とした,普遍性のある健全な外洋艇であること。
  従って特殊な目的の実験艇 は除外した。
  しかし,紙面の都合で割愛せぎるを得なかった艇も多く,
 次の機会には是非掲載したいと思う。
2 現在国内のレースで活躍中、或は今後もある程度の実績をあげると
  思われるレーサーであること。
  しかも先に述べた通り,“健全な外洋艇"であることを主眼とし,
  アコモデーションおよび構造も重視した。
3 外洋ヨットは,その総合性能によってきびしい外洋の長期の航海性能を競うものである。
  従って,写真の選択,解説に当たっては限られたスペースにできるだけ総合的に艇の性格を
  把握できるように, また他艇との比較を容易に行うことができるように配慮したつもりである。
4 写真は,帆走姿勢,船底船型,マストトップよりのデッキアレンジメント,フォアデッキか
  らコクビットまでの甲板艤装, アコモデーション,補機と船体構造を,各艇平均16枚ずつ選
  び,見るべきポィントを中心にコメントを加えた。
5 解説は後半にまとめて収載し,デザィナーの略歴,作品の傾向と実績から,対象艇の
  デザインフィロソフィー,さらにメーヵ―のワークマンシップまで,広く艇の総合的な性格を決める
  キーポイントを中心にまとめた。
  帆装図と一般配置図は,特に1/100の同スケールでまとめてある。
  写真とともに新艇計画の参考にしていただきたい。
  線図が発表されているものはあわせ掲載した。
6 解説中には,設計,計測等の数値データをかなり使用しているが,これらの数字は,
  言葉で言いつくせない艇の性格を的確に示してくれる尺度であって,外洋レースを志すものにとっ
  て, レーティングルールとともに避けて通れない問題である。
  詳細は「舵」誌に随時収載される横山晃氏,渡辺修治氏の論文などを参照願うとしても,
  必要最少限の知識を得る目的で,武市俊氏にデータの見方を冒頭に解説していただいた。

最後にこの小編を上梓するに当り,外洋ヨットの設計について,数々のご教示をいただいた
戸田邦司,武市俊の両氏,晴雨を問わず愛艇を提供試乗,写真撮影にご協力をいただいた
各オーナー及びクルーの諸士に,紙上を借りて厚く御ネL申上げるとともに,
この小編が,これからの新艇計画とチューニングのために, オーナー及びグルーの
一指針として,少しでも参考になれば,編者としては,これに勝るよろこびはない。

                                     1975年2月 編纂者代表 嶋田武夫